男性用日焼け止めは男性化粧品同様に不要である

化粧品業界の市場拡大のための新たなターゲットとしてメンズが対象となってしまった以上、「メンズのためのオススメ日焼け止めランキング」というような話が出てくるのは当然の流れだと思います。
これまではおもに女性だけをターゲットにして売ってきた商品を、もし男性にも売ることができるのであれば、単純計算では2倍の売上げが期待できるのですから、これは化粧品業界が本気にならないわけはありません。
化粧品業界がメンズ美容の必要性を煽り立て、男性にまで皮膚の劣化による見た目の老化だとか紫外線による皮膚ガンなどの恐怖を植え付け、「美白」の男子が「モテ」であるという風潮を作ろうとする、その心情だけは非常によくわかりますし、見事なまでの市場拡大の手腕には正直なところ感心してしまいます。
しかし、メンズ美容というのは、半ば受け入れられつつまだまだ抵抗もある領域ですので、実際のところは単純計算のようにうまくはいかず、おそらくは、売上は2倍にまでは到達せずせいぜい1.2倍程度かと思われますが、それでも充分な儲けであることは確かです。
メンズ美容を煽り立てる化粧品業界としてはしてやったりといったところでしょう。
男性たちによる日焼け止めの受容はメンズ美容の分水嶺
そんなメンズ美容にとって、「日焼け止め」というのは、メンズ美容の分水嶺といいますか、「男性向けの日焼け止め」が広く受け入れられるかどうかで今後のメンズ美容の進退が決定してしまうというような意味合いを持っているような商品であると思います。
メンズ美容は、洗顔料、アフターシェーブローション、制汗スプレー、汗拭きシートなどを皮切りにして少しずつその土台を固めていき、ゆっくりと、しかし確実に「メンズ美容は必要である」という流れを作り出し、定着していきました。いまや、これらのメンズ美容のアイテムに「抵抗」を感じるような人はほとんどいない状況にあるといっていいでしょう。
ここまで来たら、次はもう「日焼け止め」しかありません。「日焼け止め」を「抵抗」なしにメンズ美容のマストアイテムとして流通させることに成功すれば、あとはもう、乳液からファンデーションからクレンジングから顔パックから、デパートの一階の化粧品売り場などで扱われているようなありとあらゆる化粧品まで、女性用として売り出してきたすべての商品を「メンズ美容のマストアイテム」として作り変えて、「男性用化粧品」として売り出すことが可能になるはずです。
男性向け日焼け止めの主要なターゲットとなるメンズ
メンズ美容における、洗顔料を嚆矢にしてはじまり「日焼け止め」を分水嶺とするスキンケアのメインのターゲットは、十代後半から二十代の男性、そして、「老化」を意識しはじめて「若さ」を必死で取り戻そうと焦り始める三十代男性あたりが中心ということになるでしょう。
化粧品の巨大市場である四十代以降の女性などと違って、メンズ美容においては四十代以降の男性は、スキンケアのユーザーとしてはあまりターゲットとしては認識されていないのが特徴的であるように思われます。
たとえば、“LEON”などの雑誌を愛読しているようなそれなりに高所得の中年男性向けの化粧品となると、スキンケアというよりも、加齢臭対策であるとか毛髪などをめぐる美容系のアイテムが多くなる印象があります。
四十代以降の男性は、引き締まった体型の維持であるとか、若者には着こなせないような服をいかにおしゃれに着こなすか、というような方向で「いかにかっこよく老けるか」に取り組むことで加齢の問題が解決されてしまうことが多いので、すでに衰えてしまった肌の上に化粧を施して若さを取り戻す、というようなアンチエイジングは、あまり関心を持たれないのかもしれません。
どのようにしてメンズに日焼け止めを使わせようとするか
アンチエイジングとしてのスキンケアに興味関心を持つことが可能なのは、やはり「まだ老いていないが、これから老いていく可能性がある男性」、あるいは、「老いはじめたことに恐れを抱く男性」の二択ということになるでしょう。
十代後半から二十代の男性に向けては「三十歳を超えてから急に老け込まないために」という「未来への警笛」を軸にして「スキンケア」がすすめられ、三十代男性には「今からでも間に合うアンチエイジング」として「スキンケア」がすすめられます。
人の顔面に外見的な老化を感じさせる基準は、男女ともにそれほど変わらないため、やはり、シミ、シワ、くすみ、たるみなどが取り扱われ、その原因として「紫外線」が持ち出され、メンズ美容においても「日焼け止め」の重要性が説かれることになります。
メンズ美容としての「日焼け止め」のランキングの記事においては、「女性」を「男性」に入れ替えただけで成立するようなほぼ同じ論調で、「紫外線によるお肌の危機」を煽りながら「日焼け止め」の必要性を主張する記事を読むことができるでしょう。
最終的に、紫外線による皮膚ガン罹患の恐怖をつけくわえるところまででワンセットといったところでしょうか。当然、女性向け記事と同様に、「日焼け止め」それ自体の危険性や発ガンのリスクに触れることは稀です。
アンチエイジングと紫外線という対女性と同じ戦法
男性のアンチエイジングには「筋トレ」なども含まれる以上、「日焼け止め」の記事に「老化しない身体」として、食生活の改善も含めた「筋トレ」のオススメが付随することがあります。
こういった記事は、「身体に優しい安全な日焼け止めだけ塗っておけばOK」として、肌や人体に対して紫外線とは異質な有害性を持つ「日焼け止め」をただひたすらオススメするような記事に比べると、「新陳代謝のよい日焼けに強い身体を作る」ことを提唱している分、まだ良心的といっていいかもしれません。
日焼け止めについて私が考えていることは「紫外線対策は日焼け止め以外の対策をとるべきであり、またそれだけで十分である」ということに尽きるので、女性向けの記事においては、私は、「日焼けがしにくい新陳代謝がよい身体をつくることが何よりも大事であり、肌のターンオーバーを整えることが先決である」ということを最終的には書くようにしています。
ですから、メンズの日焼けに関しても、日焼け止めを利用するのではなく、栄養バランスの良い食生活を送り、睡眠をしっかりとり、ストレスが少しでも少ない暮らしを送ることだけをオススメし、あとは、日焼け止めの使用に関しては「不要である」という釘をしっかりと打ち込んでおきたいという気持ちがあります。
私は、女性の日焼け止めに対しては「日々の化粧は仕方ないとしても、日焼け止めは不要である」という立場をとっていますから、当然ながら、結論からいってしまうと、男性に対しても「男性の肌の上に化粧品は一切不要であり、もちろん、日焼け止めも例外なく不要である」という立場をとることになります。
メンズ美容における言葉を変えたイメージ戦略の変奏
女性の日焼け止めですと、「肌に優しい」という基準が日焼け止めの選択の際に強い力を発揮することになるので、イメージ戦略はこの「肌に優しい」というものを巡って展開されることになります。
具体的には、「ノンケミカル」、「オーガニック」、「無添加」、「有機素材」、「自然素材」、「天然素材」といった言葉が日焼け止めに対して使われて、これらの「いかにも肌に良さそうな言葉」を論拠にして、紹介する日焼け止めの肌に対する「安全性」が、使用されている化学成分などはまるで無視した上で主張されます。
このようなイメージ戦略は、メンズ美容においても同様に行われるのですが、メンズ美容の場合は、少しばかり違った形で、言葉が入れ替わって変奏される傾向にあるように思います。
女性に対して頻繁に使われる「オーガニック」のようなキャッチコピーは、メンズ美容においては「殺菌」「消臭」「爽快」「さっぱり」「すっきり」というような言葉の群れに変わります。
男性の皮膚の特徴にあわせたイメージの選択

その使い心地は、使用後に「スースーする」というようなべたつきのない感触を肌の上に与えてくれるものが主流を占めています。
メンズ美容は、「肌に優しい」かというよりも、「臭気、汚れ、脂質などに有効か」を重視したイメージ戦略が練られている、と考えることができるでしょう。
もちろん、すべてのメンズ美容の商品が「爽快」などを代表とする「臭気、汚れ、脂質などに有効」であるイメージを喚起する言葉をあてがわれているわけではありませんが、このような男女間でのイメージ戦略の違いは、男性と女性の皮膚の特徴の違いによって導かれています。
男性の皮膚は、女性の皮膚に比べると「皮脂が多く、角質が厚い」という特徴を持っています。
この「男性の皮膚の特徴」である「皮脂が多く角質も厚い」という特徴こそが「男性には化粧品が不要である」ということを決定的にするものであるのですが、それと同時に、この特徴によって、メンズ美容の化粧品が「臭気、汚れ、脂質」などをめぐる言葉に取り巻かれることにもなるわけです。
イメージにのっとって作られた男性用日焼け止めの実態
男性用の日焼け止めは「さっぱりしている」、「汗に強い」、「美容成分配合」というような特徴を持っています。
「さっぱりしている」のに「汗に強い」ということは、使い心地は「さっぱりしている」にも関わらず、汗や水分などで日焼け止めが「落ちにくい」ということです。
「落ちにくい」ということは、「クレンジングしにくい」ということであります。それは、肌に、日焼け止めに含まれている成分が残りやすいということと同義であると考えてよいでしょう。
この、「さっぱりしている」という特徴ですが、このような、べたつきをおさえた「さっぱりとした」「サラッとした」使い心地を与えてくれる日焼け止めには、「皮脂吸着成分」と呼ばれる化学成分が含まれています。
油分に由来する皮膚のてかりなどをおさえて「さっぱり」とした使い心地を与える「皮脂吸着成分」というのは、「フッ素」で加工された「シリコン樹脂」であると考えられています。この「皮脂吸着成分」は「水」にも「油」にも強い、そのどちらをも弾く「水でも油でもない成分」です。
男性用日焼け止めの「さっぱりとした使い心地」は、この「皮脂吸着成分」の「油を弾く」「皮脂によって崩れにくい」という効果によってもたらされています。
毛穴に残留する日焼け止めの危険な美容成分たち
「皮脂吸着成分」が「水を弾く」以上、「皮脂吸着成分」は「汗に強い」という特徴とも関わっています。「さっぱりしている」のだが「汗には強い」という矛盾をクリアーしているのは、「皮脂吸着成分」が「水にも油にも強い」という効果を持っているからにほかならないでしょう。
このように書くと「最高じゃないか!」という声が出そうにもなりますが、前述したように「落ちにくい」という致命的な弱点を持っています。
「美容成分配合」は言うまでもなく「化学成分配合」ということです。つまり「美容成分がたっぷり」ということは、「肌に有害な化学成分がたっぷりである」ということと同じであるわけです。
「さっぱり」と「汗に強い」という二つの特徴を成立させるために引き受けた「落ちにくい」という弱点は、これらのたっぷりな「化学成分」を毛穴のなかに残留させる役割を持ちます。
男性用の日焼け止めの使用は、確かに「紫外線」は多少は防ぐことになるのかもしれませんが、それ以上に毛穴のなかに「美容成分」を代表とする様々な「日焼け止め」の成分を蓄積させることにも繋がっているわけです。
男性用日焼け止めに対する抵抗の姿勢を持つ
「日焼け止め」は、それ自体が「肌にとっては歓迎できない」ような、安全ではないものです。そして、男性用日焼け止めは、女性用日焼け止めとはまた違った成分、「肌にとって歓迎できない成分」が含まれています。
皮脂が多く角質も厚い男性の肌質は、女性以上に化粧品向けではありません。男性のスキンケアに必要なのは、正しい保湿であり、日焼け止めを使わない紫外線対策だけです。
「アンチエイジング」や「美白」というものを称揚し、「紫外線による肌のダメージ」を盾にとって人を煽り、「メンズ美容は必要である」という空気を作り上げようとする大きな流れに、「化粧品などハナから必要としない男性たち」は「抵抗」や「反抗」を示すくらいがちょうどよいのではないかと思います。